薔薇 現在の閲覧者数: トーマダー 20080123

トーマダー

「トーマダー」とはカンボジア語で「ふつうの、ありふれた」を意味することばです。「ふつう」で「ありふれた」カンボジアを通して、今まで語られることのなかったこの国の多様な表情を伝えていきたいと思います。

■マス・ツーリズムについて考える

とある新聞記者の取材に通訳として同行し、カンボジア東部のクラチェ州へ行って来た。クラチェといえばメコン川に生息する淡水イルカ。取材のテーマもこのイルカと関係がある。

カンボジア政府やクラチェ州は、世界的にも貴重なこの淡水イルカを観光資源として活かそうとしている。最近、よく聞くようになった「エコツーリズム」の一環らしい。絶滅の危機に瀕している生物を守り、かつ観光資源として活用していくという話は聞こえがいい。イルカを守ることができ、かつ観光収入も入る。いいことじゃないか。多くの人が思う。だが、その陰で苦境に追い込まれている人々の存在は、「観光開発」というスローガンのもとにかき消される。こんなことを書いている自分も意識しなかったことだ。

絶滅の危機に瀕している生物の保護。このこと自体は大切なことだろう。でも、イルカの保護が社会的弱者を追い込むことになってはいけないと思う。
「観光資源であるイルカを保護することで、地元に観光収入が落ち、地元経済が潤う」
と主張する人がいる。この主張にある「地元」とは、具体的にどんな人々のことを指すのだろう?

観光収入が一部の人々を潤す一方、弱き立場にある人々の生活は変わらない。いや、それどころかイルカ保護政策のもとで、以前より苦しい状況に陥っている人すらいる。カンボジアが抱える陰鬱な現実のひとつがここにもある。

石澤良昭・編著『アンコールワットを読む』(連合出版)の口絵ページにこんなキャプションがつけられた写真が掲載されている。写真はシェムリアップにあるごみ廃棄場だ。
「マス・ツーリズムとは何なのか? その功罪は? 地域住民を置き去りにした観光開発であってはならない。」

格安航空券で世界を移動し、全土に張り巡らされたバス網を利用して地方へ移動する。マス・ツーリズムの恩恵にどっぷり浸っている自分は、この大きな矛盾の渦に巻き込まれ、方向を失い、出口を見いだせないでいる。これもまた陰鬱な現実だ。

この国はどこへ向かおうとしているのだろう。

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