薔薇 現在の閲覧者数: トーマダー 20070909

トーマダー

「トーマダー」とはカンボジア語で「ふつうの、ありふれた」を意味することばです。「ふつう」で「ありふれた」カンボジアを通して、今まで語られることのなかったこの国の多様な表情を伝えていきたいと思います。

■チャームの墓

チャームの墓

シェムリアップ州にあるチャームの村の墓地。チャームはかつてベトナム中部に興ったチャンパ王国の住民の末裔で、現在、カンボジアで暮らすチャームの人々はイスラム教を信仰している。村にはモスク(イスラム教の礼拝所)が建設され、その裏に立つ学校では、クルアーン(コーラン)の教えを学ぶ子ども達の声が響いていた。少女は頭にスカーフを巻き、少年たちはイスラム世界でよく見る帽子をかぶっている。また、墓標はクメール文字とともにアラビア文字でも記されている。

■子を育て、生きていくために

闘鶏を取材するため、カンボジア南東部のプレイベーン州へ行ってきた。首都プノンペンからプレイベーンまでは約90キロ。国道1号線をベトナム国境の方へ向かって進み、カンダール州とプレイベーン州の間を流れるメコン川をフェリーで渡ってから国道11号線をしばらく進むとプレイベーン州の州都プレイベーンに着く。

ネアックルアンのフェリー

▲ネアックルアンのフェリーに乗ってメコン川を渡る人々

国道11号線はフェリー乗り場のあるネアックルアンとコンポンチャーム州を結ぶ道で、西側には道路と平行するようにメコン川が流れ、右側は延々とした田園が続く。田園の遠く先にはバープノンの丘が緩やかな盛り上がりを見せる。バープノンは5世紀頃に建造されたと言われている遺構が残るところで、ここがカンボジア発祥の地だと考える研究者がいる。

氾濫原

▲プレイベーンの町の西側は雨季になるとメコン川の増水によって水没し、広大な湖のようになる。

さて、プレイベーンの町に着き、まずは宿を探すことにした。以前、あるNGOの活動に同行させてもらった際、町の中心部に建つある小さなホテルに滞在したのだが、また同じところというのもおもしろくない。旅行ガイドブックのLonely Planetを開くと、ひとつ自分好みの立地のゲストハウスが掲載されていた。地図が載っていないので明確な場所はわからないが、紹介文からだいたいの位置はわかるので、手探りでそこへ向かう。
なんとか目指す宿に着いた。空き部屋の有無と宿泊料を聞くと1泊5ドル。一人でバイクに乗って来たのに、
「一人で寝るのか?」
と聞かれる。ずいぶん不自然な質問に困惑したが、しばらくしてその疑問は少しずつ氷解していった。受付ではコンドームが売られ、そのそばには「コンドームを正しく使いましょう」という啓蒙ポスターとともに下着姿の白人女性のポスターが貼られている。部屋の作りはカンボジアの地方でよく見かける安宿のそれだが、室内にあったテレビ台の引き出しを開けるとコンドームの空き袋が二つ入っていた。室内に貼られているゲストハウスの規則も、疑問の氷解を手伝った。カンボジアのゲストハウスには部屋にゲストハウスの規則が貼られていることがあるが、そこには
「危険物を持ち込まないでください」
「チェックアウトは■時です」
「大声で騒いだりしてほかのお客様に迷惑をかけないでください」
といった規則のほかに、
「性産業で働く女性を室内に入れないでください」
という文がよく書かれている。だが、このゲストハウスの規則にはその一文がなく、代わりに
「女性と一緒に宿泊するお客様は、ご自分で貴重品の管理をしてください」
とある。なるほど、どんな宿なのかだいたい察しはついた。だが、疲れていたので面倒になり、とりあえずここに泊まることにした。
よく朝、宿の女主人にひとつの質問をぶつけてみた。結婚前の男女が寝床をともにすることは、カンボジアの伝統的な価値観にそぐわないと聞く。プノンペンでは事情が変わってきているようだが、ここは地方都市プレイベーンである。前述の一文はどんな意味を持つのだろうか。「結婚前の男女が一緒に寝ることはカンボジアの伝統的な価値観に反することだが、婚約の儀式を終えた男女は夫婦と同じだと見なされる」と言ったあとで、女主人はこう続けた。
「このゲストハウスには確かに女性を連れて宿泊しにくる男性客がいます。そういった、男性と一緒に来る女性たちのなかには、夫からの暴力に耐えきれなくなって離婚した子持ちの女性がいるんです。性産業で働く女性ではありませんよ。彼女たちは、子どもを育てるために妻帯者の愛人となって生活費を得ているんです。ただし、複数の男の愛人になっているわけではありません。相手となる男の人は一人だけです。もちろん、そういった人たちばかりではなく、結婚した男女が泊まりにくることもありますし、最近はまだ婚約の儀式を済ませていないのに、愛し合っているからといって泊まりにくる若い男女もいます」

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