薔薇 現在の閲覧者数: トーマダー 20070728

トーマダー

「トーマダー」とはカンボジア語で「ふつうの、ありふれた」を意味することばです。「ふつう」で「ありふれた」カンボジアを通して、今まで語られることのなかったこの国の多様な表情を伝えていきたいと思います。

■流れる時間感覚の違い

シシャモを炭火で焼く


客人を夕食に招くことになったので、中央市場へ買い出しに行った。中央市場には、近所の市場にはない海の幸が(カンボジアにしては)豊富に揃う。今日の狙いはシシャモとハマグリだ。中央市場でハマグリが売られているという話は、先日知り合った人から聞いた。
売り子さんに聞くと、ハマグリは知人から聞いたとおり1キロ2000リエル(約60円)で、シシャモは1箱(20匹近く入っている)1万リエル(約300円)。カンボジア人も日常的に魚を食べるが淡水の魚であって、シハヌークビル市など沿岸部の地域は別として、海の魚はほとんど食べない。サワラ、マナガツオ、サバ、タイといった久しぶりの海の幸に心が躍る。
さて、買ってきたシシャモを大家さんの家で炭火で焼いてもらうことにした。カンボジアの家庭では、首都プノンペンでも炭火が日常的に使われている。ガスコンロのある家でも、ガスと併用している場合が多い(もちろん、ガスしか使わない家もある)。炭火は1キロ数百リエルで買えるため経済的だし、ガスと比べるとものをおいしく焼く力がある。朝食(外食)の定番メニューのひとつである「豚肉のせごはん」の豚肉も炭火で香ばしく焼かれる。この味を知ってしまうと、炭火焼きにこだわりたくなってしまう。実際はいろいろ手間がかかるので、ついつい簡単なガスに頼ってしまうのだが……。
ガスと炭火の大きな違いがもうひとつある。所要時間だ。ガスは栓をひねればすぐに使えるが、炭火は火がついてある程度の温度に達するまで15分くらいはかかる。加えて、ガスと比べると火力が弱く、焼くのにもある程度の時間を要する。火の力が強くなり過ぎれば、竈の下から灰をすくいとり、火の上に振りかけて火力を弱める。逆に弱くなれば新しい木炭を追加する。パチパチと赤い光を発する炭火の前で腰を落ち着け、大家さんの親戚の女性とたわいもないおしゃべりをしながら魚が焼けるのを待つ。
「この魚、何て言うの?」
「どうやって食べるんだい?」
「あーあ、身が崩れちゃったね」
「焼く前に塩味をつけたほうがおいしいんじゃないの?」
「この魚、卵ばっかりで肉がほとんどないわね」
漂うシシャモの香ばしさとともに、緩やかな時間が流れていく。ガスで焼いていたら、こんなゆったりと流れる時間を感じることもないだろう。カンボジア人の時間感覚は現代の日本人のそれと大きく違う。炭火で魚を焼くという行為から、彼らの生活時間の流れを具体的に体感したような気がした。
自分はガスを選択し、ゆるやかな時間の流れを捨てて生きてきた。だが、カンボジアに来てからは、炭火の時間のなかで暮らすことも多い。

便利さを追求するか、もしくは「炭火の時間」を求めるか。ただ、一度便利さにどっぷりと浸かってしまうと、「炭火の時間」にあわせて動くのは難しくもある。

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